富士アカデミーでは、受講生の英語力向上と通訳ガイドの実践的訓練のため、第7回ガイド研修を実施します。今後も定期的にガイド研修を実施する予定です。

通訳ガイドは、当校代表の知念保則や当校出身の通訳ガイドが担当し、外国人旅行者を案内する時と同じやり方で説明します。

研修の目的は語学力向上にあるため、参加者も全員全て英語で話すようにしてください。

日時: 平成21年12月23日(祝日・天皇誕生日)
集合場所: 東京駅 丸の内中央出口改札前
主な案内場所: 皇居(一般参賀のため当日は皇居内に入ります)・大手門・富士見櫓・辰巳櫓・坂下門・宮内庁・二重橋・伏見櫓・長和殿・浜離宮恩賜庭園・築地・浅草寺・雷門(風神・雷神)・仲見世・宝蔵門・香炉・浅草寺本堂・浅草神社・二天門等)
集合時間: 午前9時
解散時間: 午後5時頃(浅草寺にて解散予定)
担当通訳ガイド: 知念保則(元JGL専属通訳ガイド・ベテラン通訳ガイド研修講師)

■当日は皇居内での一般参賀があります。その際のガイディングテクニックと、富士見櫓等の各見学スポットで、それぞれに即した歴史的・文化的解説を加えます。

■浜離宮では庭園内を回遊しながら、要所要所で発すべき説明について指導します。

■浅草では雷門から仲見世を経て、宝蔵門から浅草寺、浅草神社までを特に詳しく解説します。皇居と浅草は、東京タワーや明治神宮と共に東京観光では必見の場所ですので案内できるようにしましょう。また、一度は皇居内を見学するのもガイドとしてよい経験になります。
浜離宮や築地、浅草は日本的な場所として外国人のお客さんに大変人気のある場所ですのでしっかり案内できるようにしましょう。とりわけ浅草は古き良き江戸情緒に浸れる数少ない観光地です。また、研修の一環として参加者にも英語で説明してもらう場合もあります。思い切って案内してみてください。会話が不得手な方もあまり心配せずに気軽に参加してください。

一般参賀・都内研修レポート
担当通訳案内士 知念保則

12月23日の天皇誕生日に皇居内に入り、一般参賀の模様を自分の目で確かめてもらう。皇居は外国からのお客さんがとても関心を持つ箇所であるので一度は訪れたい場所である。一般参賀の体験を二重橋や東御苑を案内する時に触れることができるのは、ガイドとしては心強いものである。体験したことのない方は年2回の参賀の日に体験してみてはいかがだろうか。天皇誕生日とお正月の1月2日に一般参賀を実施している。
今回は普段あまり行けない一般参賀も含まれるということで、研修参加者が40名近くになり、多人数をいかに案内するかということを念頭に置いて案内した。プライベートツアーを除けば、30人以上のお客さんを案内することはよくあること。参考までに少し気付いた点を列記する。

まず、多人数を案内する時に一番気をつけなければならないことは、やはり声の大きさである。声が小さければ全員に説明が行き渡らない。声を張り上げればどうかと言えば、これは無理をした状態なので長続きしない。どうすればいいか。普段から訓練をするしかない。大きくはっきりと聞こえるように意識して訓練する必要がある。意識するかしないかでは大きな差が出てくる。
次に、多人数の場合、歩きながら全員に聞こえるように説明することは難しい。よって、説明する箇所をこまめに決めて、できるだけ全員の方を向いて話すことである。そうすればメリハリができて、多人数でも聞こえないという問題はほとんど解消できる。
また、バスを使用する場合は、バスの中であらかじめ訪問箇所の概略を説明することも重要である。現地ではその概略を踏まえてより具体的に説明をすれば、わかりやすく時間も節約できる。

さて、今回の研修を振り返る。 集合場所が東京駅丸の内口であったため、まず辰野金吾設計の赤レンガの建物を説明。現在は先の戦火で中央部分が破損したため、全体の改修作業と同時に元のドーム状の屋根に改修中である。 皇居近くで、皇居の歴史を説明する。太田道灌に始まり、徳川家康を経て15代続いた徳川幕府、明治維新を経て皇居となる。皇居前広場では眼前の辰巳櫓、富士見櫓、大手門、桔梗門、坂下門の説明。広場に植えられた黒松が長寿を表すことにも触れ、他の鶴や亀に言及する。厳重な身体検査後、正門から二重橋の石橋、鉄橋を渡り宮殿の長和殿前へ。この場所は旧西の丸辺りになる。10時半ごろ陛下と皇族の「お出まし」が始まる。今年は在位20周年、ご成婚50周年記念の節目の年ということで訪れた方々の数も三万人と過去最高であったそうだ。
参加者から「陛下の午後の予定は?」の質問に下記を付け加えておく。 午前三回のお出ましの後、午後には鳩山由紀夫首相ら三権の長がお祝いの言葉を述べた後、国会議員や各界代表者らも招かれうたげが催される。続いて各国駐日大使らとの懇談会が開かれ、両陛下や皇族と歓談する。 長和殿の北側にある珍しいデザインの建物は「松の塔」と言い、松の葉を模った照明塔である。 出口の大手門に向かう途中に三重櫓の富士見櫓が見えてくる。これは1600年代半ばに建てられ現存する最古の遺構の一つ。他の遺構は辰巳櫓と伏見櫓。富士見櫓を目の前に見ることができるのは、年2回のみである。富士見櫓を見ながら築様式について解説する。破風、唐破風、切妻造、寄棟造、入母屋造などの説明。建造物の標識にしばしば使われる屋根の基本的造りであるので説明できるようにしたい。櫓の瓦に三つ巴のマークと皇室の紋章である16花弁八重菊も確認する。大手門近くに100人番所と同心番所がある。100人番所の建築は建物の上が切妻造で下が寄棟のいわゆる入母屋造であることを説明。同時に瓦に刻まれている徳川家の家紋の「葵の御紋」にも触れる。この場所は江戸城本丸へ続く重要な場所であったため、警備用に同心番、100人番所、大番所が置かれた。最後に出入口の大手門の説明。この大手門は江戸城の正門であったことから枡形門と言われる敵に簡単に攻められないような工夫が凝らされている。かつて大手門の渡り櫓の屋根を飾っていた鯱鉾が枡形門の一角にある。

地下鉄で築地に行き、各自昼食をとる。場外の飲食街は買い物客で賑わっていた。築地市場の近くということで寿司屋が軒を連ねる。イクラや数の子、ウニ、トロ、イカ、タコ、マグロ、イワシなどの人気のある寿司ネタは英語で言えるようにしたい。

食後は浜離宮に集合。正式には「東京都立浜離宮恩賜庭園」と言う。
現在の所管は東京都である。浜離宮の歴史は、江戸幕府の初期にさかのぼる。初めは将軍家の鷹狩の場であったが、後に甲府藩主松平重綱がこの地を埋め立て別荘を建てたので「甲府浜屋敷」と呼ばれた。子の家宣が6代将軍になると「浜御殿」に改称。明治維新後に天皇家所有の「浜離宮」となり、第2次世界大戦後は東京都へ下賜され現在に至る。
見所は6代将軍家宣が植えたと伝えられる三百年の松。今年でちょうど300年目の黒松。個人的に気に入っているところは中島のお茶屋である。ベランダから潮入の池を眺めながら抹茶をすすり、甘い和菓子を味わうことができる。何と贅沢なひと時か。将軍らも同じような時間を共有したのだろうか。庭園の周りの高層ビルは気になるが、お茶屋からの景色を楽しみながら外国からのお客さんに茶道の手ほどきもできる格好の場所である。(抹茶は和菓子付きで500円)
春には菜の花や牡丹が咲きほころぶお花畑もある。

最後の訪問地の浅草へ。 普段の観光ツアーでは時間がなく十分な説明はできないが、このような研修ではある程度時間が確保できるので毎回遣り甲斐を感じる。
まず雷門である。門の上部に「金竜山」とある。これは浅草寺の正式名である。浅草のシンボルの雷神・風神は仏像のように見えるが、実は神道の神である。雷や風は自然現象であるから神道の自然崇拝に当たる。神仏習合の一端が窺える。このような発見も研修の楽しみの一つ。雷門も他の重要な建造物同様に何度も地震や火事で失われ再建されてきた。大きな赤い提灯には寄贈者の松下幸之助の名が刻まれている。雷門の裏側には仏像の守護神金竜・天竜像がある。いつものように活気に満ちた仲見世を通って仏教経典などが保存されている宝蔵門へ。かつては仁王門と呼ばれ、口の形が阿形・吽形の金剛力士像が参拝客を見守っている。裏側には山形県村山市奉納の大わらじを確認。その後、参加者に五重塔の意味や浅草寺の由来を英語で説明してもらう。香炉や手水屋の説明。本堂天井の天人と竜の絵画を確認。浅草寺本堂の東側にある三社祭で有名な浅草神社を説明する。浅草神社は二天門と同様に震災を免れた貴重な遺構で重要文化財に指定されている。浅草寺の本尊の観音菩薩を隅田川で偶然見つけた檜前浜成(ひのくまのはまなり)・竹成(たけなり)の兄弟と土師仲知(はじのなかとも)の3人を祭っている浅草神社は三代将軍徳川家光の寄進によるもの。

第7回研修も日本文化を学び、ガイドの仕事ぶりを知る目的と同時に英語力をブラッシュアップすることにも重点を置いたため、全て英語で通すことにした。研修中、英語の解説を聞き、英語で考え、英語を話すことによって参加者の英語力向上に大いに役立ったと思う。
今回はウォーキングツアーということで、歩け、歩けの研修であった。大きな声を出し、頭も体もよく使うガイド業は「本当に健康にいいものだ」と改めて実感する。
それでは皆さん、お疲れ様でした!