■ 通訳ガイド体験記(番外編)
1.ツアー概要
第56回 国際宇宙会議 福岡大会の開催時期に行われた宇宙博(展示会)にて |
期 間 |
2005年10月13〜15日、20〜22日 |
場 所 |
マリンメッセ福岡 |
内 容 |
搬入、搬出の際の通訳業務(山九株式会社より九州通訳・ガイド協会に依頼があり、お引受けしました) |
2.体験記
通訳ガイドになると、関連組織に所属して仕事を斡旋してもらうことができます(私は東京の日本観光通訳協会( JGA)と、地元の九州通訳・ガイド協会(KILGA)に入っています)。仕事は主に通訳ガイドですが、それ以外にも通訳や翻訳の案件も時々あるので、思いがけないチャンスに恵まれることもあります。今回はまさにそのひとつ、一大国際イベントにおける通訳業務というお仕事で、普段の観光通訳ガイドとは一味違ったお話をここでさせていただこうと思います。
福岡に国際宇宙会議がやってきた
先日、福岡で国際宇宙会議、それに伴う宇宙博が開催されました。国際宇宙連盟( IAC)主催のイベントで、毎年世界各国を回り、日本で行われるのは25年前の東京に続いて二度目です。
今回話題を呼んだのは何と言っても、ホリエモンことライブドア社長の堀江氏が宇宙観光ビジネスに乗り出す際に使うと発表した、ロシアの古いロケット(写真)。これに自由に試乗ができるということで、一般公開の日には多くの人が列を作って並び、ハンドルや操作盤をおもしろそうに触ったり写真を撮ったりと大盛況でした。他にも宇宙服や未来型ロケット等の展示があちらこちらのブースの登場し、宇宙というテーマならではのスケールの大きな夢いっぱいの内容が盛りだくさん、子どもたちも大勢見学に来ていました。
さて、この宇宙博で各外国人出展者グループが展示物を搬入、ブースの設置、終了後に搬出するに当たり、出展者の方々と作業員の方々との間に入って通訳業務をする、というのが今回の仕事です。合計6日間、展示会の準備から片付けまでのプロセスを目の当たりにできるということで、私はこの仕事をとても楽しみにしていました。実際にすばらしい経験となりました。
ブースごとに見られるお国柄
世界中からたくさんの国が集まると、お国柄が見えてきます。ホリエモン・ロケットを枠から外すのが上手くいかず、ああでもない、こうでもないとロシア語で勢いよく激論し続けていたロシア・ブース。外注に頼らず、自分たちで釘打ちからペンキ塗りまで全てやり遂げようとするインド・ブース。美術品のようなデザインが印象的なイタリア・ブース。ヨーロッパのカフェをそのまま持ってきたようなバースタイルを作り上げたオランダ・ブース。几帳面で何事もきちんと対処するドイツ・ブース。そして、私たちの姿をみるたびにハーイ!と声をかけてくれ、いつも紳士的だったイギリス・ブース・・・。でもどのブースもこの晴れ舞台で、最高に立派なディスプレイをお披露目しようという気持ちは同じで、誰もが一生懸命でした。そして展示会当日には全てのブースが立派に完成したのでした。
私が主に担当したイギリス・ブースは、大掛かりな設備であった上に、展示物も多く、作業は時間がかかって大変でした。そんな状況の中、イギリス人出展者の方々が自分の展示物を少しでも美しく見せようと、妥協せずに何度も設置し直している姿が印象的で、彼らがいかにプライドを注いでいるかということが、ひしひしと伝わってきました。また会期中には、3年後の国際宇宙会議主催国の選抜が行われ、最終選考でイギリスが選ばれるという嬉しいニュースもあり、お祭り気分が一層盛り上がりました。
個人の力より、みんなの力
この仕事を担当したのは私を含めて3人、九州通訳・ガイド協会の会員で、お互いのことは多少知ってはいたものの、一緒に仕事をするのは初めてでした。それでも初日から、すっかり意気投合し、私たちのまとめ役でもあった山九のお二人がすばらしいフォローをしてくださったこともあり、よいチームワークを発揮することができました。
通訳をする人は自分だけ目立とうとする人が多い・・・お昼休みにそんな話題が出ました。通訳の仕事は個人に振られることも多く、内容によっては報酬がかなり高いので、認められて次の仕事につなげたいという思いから、競争心が強く出てしまうのでしょう。でも実際の仕事はほとんどの場合チームで成り立っていて、個人個人の能力以上に協調性が大切である場合が多々あります。普段の観光通訳ガイドも決して個人プレーではなく、仕事をくださるエージェントの担当者に始まり、ドライバーさん、観光スポットの方々、お客様・・・と実に様々な人と関わっているのです。
自分だけがよい仕事をしようとするのではなく、お互いにフォローし合って、自分が貢献できる部分は貢献する、引くべきところは引く、そうして総合でいい仕事をするほうが、お客様に喜んでもらえるね・・・私たちはそう同意しました。そして、最後まで清々しい気持ちで仕事をすることができました。
通訳ガイドになってよかった
3年前に通訳ガイド試験に合格、育児専念期間を経て、仕事をスタートしてからというもの、すばらしい人々との出会いに恵まれ、知識や経験も増えていきました。そして、人生が何倍もおもしろくなりました。その最初のきっかけが富士通訳アカデミーへの入学で、当時はこんな展開を予想もしていなかったのですから、不思議なものです。
富士アカデミーに入学した翌月に妊娠した私が、その年の合格直後に出産した長女は、今では2歳8ヶ月になりました(写真に写っているのが彼女です)。合格後の約2年間は育児だけで精一杯で、まさか仕事をするなんて想像もつかなかったのに、いつの間にか状況は変わりました。一日中抱っこが必要だった娘はいつの間にか友達と遊ぶのが楽しくなり、今では保育園に喜んで通い、「ママはお仕事」と理解してくれます。子供を他人に預けることに反対していた夫は、今では保育園の大ファンで、私が仕事の日は保育園の送迎や家庭での世話を代わってくれます。
なぜ通訳ガイドをしたいのか・・・。富士通訳ガイドアカデミーに入学した当初は、英語を使いたい、人とコミュニケーションができる仕事がいいといった、人にきちんと説明できる、もっともらしい理由をやや強引に考えていました。でもこうして実際に仕事をしてみると、もっと単純な理由であることに気づきました。ワクワク、ドキドキ、楽しい時間を人と共有したい・・・ただそれだけなのだと。語学力や知識はそれを実現するためのパワフルな手段、だからもっと勉強して高めていこう・・・。それが私のモチベーションです。
通訳ガイドに挑戦される方も、お一人お一人、それぞれの事情やハードルがあることと思います。でも時間の経過で状況は変わるし、何よりも自分の信念が大抵のことを解決して、いつかきっと道を開いてくれると思います。だから可能性を信じて、夢に向かってがんばってください。
私も皆様に負けないよう、これからもよい経験を積み、ここでまた皆様に楽しい報告をしたいと思っています。どうもありがとうございました。
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